「今日も結構買いましたねー」

レッドは足枷をジャラジャラと鳴らしながら、荷物を持って歩く

「そろそろ食料も少なくなってくれたしな。それにお前も季節の果物食いたいだろ?」

隣をゆっくりと歩くグリーンは微笑みながら言う

「わぁ!このイチゴはオレの為ですか?ありがとうございます、グリーン様っ」
荷物の中を覗いた後に、グリーンに満面の笑みを向ける

そうこうしてる内に二人は市場を過ぎ、家へと着いた
二人が住んでる所は古くも無く、また無駄に派手でも無いこじんまりとした小屋だった

「ふぅー、疲れたぁ〜。グリーン様、コレって何処に持ってけば良いですか?」

荷物を一旦床に置いて言うと

「レッド」

そう静かに言われレッドは気付く

「やっぱりまだ慣れないな、この生活。別に俺はグリーンの奴隷なんだから、このままでも面白いけどなっ」

ヘヘッと笑ってると、グリーンはレッドの足枷を鍵で外して

「バカ言え、幼なじみ相手に様付けって変だろ。そもそもオレの方が…」

そう、今でこそレッドは奴隷と言う姿を取っているが
レッドは実は王族の出である

しかし王族の権力争いに巻き込まれ
王宮を追われる形となった
そこでレッドたちは奴隷として国外に逃げおおせる形となった




抗争当時、最年少の近衛兵であり、城下町を守っていたグリーンは当時の事にショックを受け
そして自らの至らなさを嘆いた

それからグリーンは亡くなった王国を後にて、姿を眩ましレッドを探すべく旅に出たのだった

今度手にしたらレッドを決して離さない様に。と
剣とポケモントレーナーとしての腕に磨きをかけた



〜話は少し前に遡る〜

そんなこんなで、グリーンが異国の地で雑用をしていたレッドを見つけたのは丁度半月前の事だった

商人蔓延る市場で、ひときわハツラツとした声に耳を疑った

「いらっしゃいー!今日はこの果物が新鮮でおいしいよっ!」

間違いない、レッドの声だ。

グリーンは声のする方へ人を掻き分けて向かった

レッドはグリーンを見ると

「お兄さん、今日はコレがオススメだよー。買ってて買っててー」

「…レッド」

震える様な、泣きそうな声で名前を呼ぶ

「え…ウソ?グリーン…なのか?」

レッドが唖然としながらそう返す

涙でレッドの顔が見えなくなる

たまらずその尖った肩を抱き締めた

「ううっ…グリーン…グリーンゥ…ひっぐ」

レッドが泣いているのが肩越しに伝わって来る

「おやおや、レッドどうしたんだい?何が悲しい事でも…」

店の奥から出てきた、人の良さそうなおばさんがレッドに心配そうに声をかける
「あ…マスター…ちがっ、違うんです…ぐすっ…嬉しくて…」

レッドは振り返って涙声で言った

「何か訳ありみたいだね。良いよ、もう仕入れ終わったし店番しててあげるから。店の奥使いな」

コレがレッドを奴隷として扱ってる主人かとグリーンは睨みを利かせたが
レッドの扱いから見るに、歪んだ人間で無さそうだと安心した

「あ…でも、まだ仕事が…」
レッドはおずおずと言うがマスターと呼ばれる女性は

「そんなメソメソしてる売り子なんて客が逃げちまうよ!良いから行ってきな」
と有無を言わさずグリーンとレッドを店の中に押しやった―



二人きりになると急に気まずくなる

何年ぶりになるか分からないからどう接して居たか思い出せない

「ぐっ…グリーン、何でココに?マサラよりかなり離れた国だよなココ」

「お前を探しに来たんだ」
コレについてはグリーンは即答した

レッドは色々な事を質問してくれるおかげで、会話は弾んだ

一通り現在に至るまでの互いの生活を知ることが出来た

レッドは王家を逃げてからすぐこの町に来たらしい

街に来てすぐ、今の女主人に奴隷として、と言うよりは手伝いとして扱って貰ってるらしく

奴隷の証である足枷は合鍵は奴隷商人が売らなかったらしく外せない

レッドの肩は尖ってこそ居たが毎日、必要な食べ物はちゃんと用意してくれていたし服も洗っていると言っていた

「そんな心配そうな顔すんなって。俺は普通に働いてるだけだったよ。まぁ、確かに王家ではありえない生活だったけどコレが普通なんだよなー」

えへへ、っと笑っている

多分、先程見た笑顔からも
奴隷としての生活がレッドのこのまぶしい笑顔を陰らせる事は無かったところをみると

不幸中の幸いとでも言おうか、酷い扱いは受けて無かったとグリーンはホッと撫でおろす

「良かったな、良い人に拾って貰って」

グリーンはそう言うとレッドはうんと頷いた

何年かぶりにあっても、レッドの根本的な事は何も変わっていなかった

眩しい笑顔に、人をまっすぐに見つめるその瞳。

弾む声にこっちまでほほえましい気分になる

「(コレが・・俺が好きだったレッドだ。やっと・・・やっと見つけた)」

長年培ってきたこの恋は、いつか意地やプライドによるものなのかと考えた時期があった

想い続ける事が誇りになるのか・・・なんて

でもそんなくだらない事では無かったのだ

ただただ、この目の前に居る愛しい人が欲しかった

そして守ってやりたかった

ただそれだけの実直で浅はかな欲望

「そう言えばさ、さっき聞き損ねたけど。俺を探しに来たってどういう事?」

レッドは不思議そうに小首を傾げて

「それはな・・・」

すると腕をグイッと引っ張りグリーンはレッドと唇を重ねた

「んぅ!?・・・はっ、んっ・・・やぁ」

レッドは困惑してグリーンの胸をドンッと押す

「なっ・・・何すん・・・」

するとグリーンはレッドをまっすぐ見つめて

「まどろっこしいのは好きじゃないんだ。レッド、お前がずっと好きだった・・・だからココまで探しに来た」

有無を言わせない言葉だった

強い口調でも無く、でも強い意志の籠った声だった

ただレッドは困惑した

「そ・・・それって、キス・・・したいとか、そう言う、好き・・・なのか?」

「ああ」

グリーンは強く頷く

「(嫌じゃ無かった・・いや・・むしろ・・・ちっ、違うそんな・・・)

レッドは顔を真っ赤にさせながら俯いてる

「お前を国に連れ帰りたいと思ってるんだが・・・こればっかりはお前が決める事だ。いきなり困らせて悪かった」

レッドから身を離したグリーンは自分の失態を苦笑しながら踵を返した

「(もう少し理性が保てるかと思ったんだが・・・数年で自制心は弱まったな)」

するとグイッと後ろから袖を掴まれる

「おっ、オレも出来るなら帰りたいよ・・・でも、マスターの事もあるし。せっかく再会出来たんだ、お前と一緒に居たいけど・・・お前と一緒の気持ちになれるかは・・分かんないんだ」

その言葉にグリーンは驚く

「ホントか?少しは期待・・・しても良いのか?」

またレッドに顔を寄せると、レッドは顔をググッと押し返して

「まっ、まだ保留って言ってるだろっ!調子のんなってばっ!!」

そんな姿に頬を緩めずにはいられないグリーンはフッと笑って顔を離す

「あんま俺を喜ばせる事すんなよ」

意味深な言葉を吐く

「お前の主人の事なら、あんまり気は進まないが方法はある」

そうしてレッドを連れて店の外に出る

「おやレッド。落ちついたみたいで良かったよ」

マスターは笑って頭を撫でた

「ご婦人、折り入って頼みがあるのですが」

グリーンは重苦しい口調で始める

「レッドを私に売って下さい」

「はっ!?」「えっ!?」

マスターとレッドは同時に驚いた

グリーンは深々と頭を下げて

「とても・・・とても大事なものなんです。長年追い求めて来た・・・」

そこで言葉を一旦切り

「ご婦人がレッドを大切に扱ってくれたのも、大事に思っていたのも分かっています。でも・・・俺はそれ以上にこいつを大事に、幸せに出来る自信がありますっ!だからどうか・・・」

その言葉にレッドの胸はずっと高鳴ってばかりだった

昔のグリーンはこんなに情熱的だったろうか

もっとクールで、でも優しくて。そんな印象が強かった

言葉一つ一つが胸の中に入って来て落ち付かない

「…レッド。お前はどうしたいんだい?」

マスターはそわそわしているレッドを目ざとく見つけると問う

「え・・・あ、オレは・・・」

口籠るレッドをマスターは待っている様だった

「オレも・・・コイツと一緒に行きたいです」

するとフーとマスターは一息ついて

「そうかい」

その時のマスターはレッドの成長を喜ぶ様な
でも寂しそうな複雑な顔をしていた

「子離れって・・・こんな感じなのかね」

「まっ、マスタァー・・・」

レッドはマスターに抱きつくと声をあげて泣いた

「ごめんなさい・・・ごめんなさい、オレを育ててくれて・・・ありがとうございました」

「幸せになるんだよ、まったく・・・」

多分、この人はレッドの色んな顔を知っている

嫉妬と、レッドを守ってくれた感謝がマーブル状になって複雑だった

「(こんなに狭量だったのか・・・俺は)」

と自重気味に笑ってしまう

「んで?いったい幾らで買うつもりだったんだい?この子の意思で私はレッドを手放したけどね。商人なんだ、貰えるモノはしっかり貰っておくよ」

グリーンは懐から袋を出してマスターに渡した

そこには純金や世にも珍しい宝石がぎっしりと詰まっていた

腕を磨くために賞金稼ぎやトレジャーハンターもやっていたグリーンは

そこでかなりの収入を得ていた

素人目に見ても、人一人がそれなりの贅沢をして

一生を遊んで暮らせる位の金額相当のモノがその袋には詰まっている

実はそれはレッドを主人から買い戻す為に用意したものだったのだが

相手が金に目のくらんだ奴隷商人などだったら何の罪悪感も感じなかったのだが

こんな形になるとは思ってもいなかった

「ふんっ・・・少ない。全然少ないよこんなんじゃ・・・レッド、あんたも安く見られたもんだね・・。それでも、行くんだね?」

涙をこらえた様な声だった

「はい、ごめんなさ・・・ありがとうございました」

最後にレッドはめいっぱい涙を溜めながら笑った

マスターもそれに釣られて笑顔になる

「あたしはこの程度の金で満足しないよっ!もっとこの店を大きくして、そんであんた達の国まで届く大きな市場を作ってみせるよ!」

「絶対行きます!毎日でも通って、またおいしい果物売って下さい!」

「楽しみにしてますよ。あ・・・コレはもういらないですよね」

グリーンはそう言うと、剣を抜きレッドの足元に突き立てる

すると足かせはパキッと音を立ててはじけ飛ぶ

「おっどろいた・・あんた剣を使えるのかい。その鎖、あたしだって色々試したんだけど・・・」

そうして『元』マスターは思いついた様に

「そうだっ!市場が出来たらレッドは売り子、あんたは警備兵にでもなっておくれよ。そうしたらウチの市場は安泰だよ」

「俺たちは高いですよ?申し遅れました、俺はグリーンと言います」

グリーンはちょっと意地悪そうな顔で笑って名乗る

「はんっ、金に糸目をつけない位大きくして見せるよ!絶対ねっ!」

そうして俺たちはこの街を後にした

レッドはまた泣きそうな顔をしていた

手を握ると、少しビクッとしたけどその後に強く握り返して来た

やっと手に入れた温もり

グリーンは決してこの手を離さないと心に誓ったのだった―


(後半に続く)
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