「はぁ〜」
盛大にため息を着いた理由はいつものこと
「童貞卒業してーなー」
そろそろオレもそう言う年頃な訳だ
本能がより多くの種を撒こうと身体が疼く
自慢じゃあ無いがオレはモテる方…らしい
雌達は自然と集まって来るわけで、ぶっちゃけ『そう言う』チャンスは幾らでも有るわけで…
しかし、それをしないのは情事が終わったあと俺ら雄は雌に産むための栄養になるため食べられる
そう、とどのつまり殺されるって訳
俺ら雄達を吟味して、種を貰って食べる
さぞかし雌はお偉いんでしょうね
それが怖くて出来ないなんて口が裂けても言えない
でもそれが普通の考えじゃあ無いか?
周りの友達はもう童貞は卒業したらしい
らしいと言うのは誰も彼も本人から聞いていないからだ
そう、皆死んでしまった
実はココまで行為を恐怖するのには理由があった
昔、森を散歩していたら偶然その行為中の現場に遭遇したんだ
そこに居たのは小さい頃良く遊んでくれた兄貴分だった。雌の顔は知らなかったが
どうやらコチラには気付いて無いようだった
オレは未知との遭遇に釘付けになり、その光景に見入っちまった
あの時止めていればこんな思いもしなくて済んだのかも知れないけど
いつもクールだった兄貴分の顔は快楽に溺れ、淫猥に歪んでいた
それが自分の一つ目の刷り込み。
あの兄貴分があそこまで乱れるなんて、どんなに気持ちが良いのだろうか…なんて
そして腰がガクガクと揺れて、兄貴分は放心した様に動かなくなった
そして次の瞬間、目を覆いたくなる様な光景を目の前にオレは震える足で一目散で逃げ出したんだ
「ひっ、くっ…喰ってる!」
腹からせりあがる感覚を必死で押し止めて、息を切らして走った
この時のオレにはまるで殺人鬼の様に見えていた
それと同じに、躰をエサに虫を喰う食中植物の様にも思えた
これが二つ目の刷り込み。
自らの欲望に溺れた卑しい雄の最後の様に考えた
後から事情を知ったがそれでも暫くの間体の震えが収まる事は無かった
そんな事があり、オレは今こんなジレンマを抱えたりする
ふっとある日こんな事を言ってきた
「そんなに卒業したいなら…オレじゃ。。。ダメかな」
真っ赤な顔をしながらそんな事を言ってきたコイツは幼なじみ…って言っても二歳年下だから弟みたいなもんだけど
しばらくオレは絶句した後、怪訝そうな顔でこう言った
「…オレをバカにしてる?こんな時期になってもこうして悶々としてるオレがそんなに可笑しい!?雄を抱くなんて気持ち悪い。なら文字通り死んだ方がマシだね」
「ちっ、ちがっ…」
何か否定していたが聞いてやる義理はない
オレは足早に忌々しいコイツの前から立ち去る
「オレは…ただ、かっちゃんの事が−−」
そこから先は風の音で聞こえなかった。
それから数日、毎日の様に後を付いてきたチビは姿を現さなかった
あの日は言い過ぎたかもな…
でも。顔を赤くしたアイツを一瞬雌かと思っちまった
小さい頃から、カワイイ顔をしていたが成長して面と向かって見たのはホントに何時振りだろう
確かに…その辺の雌よりカワイイかも知れない
おい、なんだよコレ
考え始めたら止まらない
アイツの顔思い出すたび、身体が熱くなってくる
もしかして、『かっちゃんの事が−−』の後って… いやいや、ありえねーから
でも、千歩譲って、いや一万歩譲ってそう言われたとしよう
…オレは果たして何て返すんだろう
アイツの事は好きだ
でもそれは、弟や友達に向ける好意であって…
決して、こっ…恋、なんかじゃ
そうだ!
簡単な方法があるじゃないか
仮にアイツと交尾したとしよう
…不思議と嫌じゃ無い
なんで?今までそんな事考えた事もなかったし
想像する事すら無理だと思っていたのに…
アイツの事を考えると、胸に痛みが走る
けど、それと同時に空虚感が満たされる
この気持ちに名前を付けるのはまだ怖い
だから…もう少しだけ
こんな中途半端な気持ちで会うのは卑怯かも知れない
でも…でも今すぐにでも会いたい
『アンタって、何かいっつも冷めてるよね』
ふっと昔雌に言われた言葉を思い出した
オレは今までココまで必死になったことは無かったかもしれない
やっと…やっと見つけられるかも知れないんだっ
オレが心から欲しいと思うものが
誰よりも何よりも、大切にしたいと思えるヤツが
気が付くと、オレは寝転がっていたベッドから飛び起きて
アイツの家に一目散に向かっていた−−−−
「はい、どちらさ…ま」
ドアを開けて、目の前にオレが居るのを見るや絶句する
「あ…、あの何の用?前は悪かったって、その思ってて…もう関わらないからさ」
オレは今にも泣きそうにしてるコイツを見て、気が付くと手が頭に伸びていて、自然とキリクを撫でていた
「わっ…え、何?あの…同情とかなら大丈夫だから…」
「あのさ。」
オレは真剣な面持ちでそう切り出す
ビクッとキリクはなった
「お前がさ、オレに抱いた感情ってどんなの?」
「え…?聞いても気分悪くするだけだよ…」
「いいから。」
思い返してみれば、嫌に脅迫じみた口調になってたな…
この時のオレは変に胸の鼓動がうるさくて、他人に気を回せる程の余裕なんて持ち合わせて居なかった
「えーと、その。一緒に居たいとか、誉められたら嬉しいとか…触りたいとか…」
「抱いて欲しい…とか?」
別に嫌味を言うつもりは無かった
ただ…、俯くコイツの姿を見ていたら、つい
それを聞いてキリクは顔を真っ赤にしたかと思うと同時に泣き出した
「ごめっ、本当に…ひっ、悪いと…思ってるから……」
「わーっ、悪かったよっ!お前を責めに来た訳じゃ無いんだ…いや、あながち間違って無いかな…」
「なにか…言った?」
「いやっ気のせいだっ」
「じゃあ、何しに来たの?」
涙を拭いながら、キリクは問う
「お前とな…おんなじ気持ちなのか……確かめたくてさ」
うわーっ、我ながら恥ずかしいセリフ
「え…、そ…れって」
「お前の事を考えるとドキドキする。側に居ないと落ち着かない、優しくしたいのについイジメたくなる。触りたい、キスしたい」
キリクは目を見開いて、信じられないという顔をしていた
「うそ……んっ」
驚いた拍子に小さな声で呟く様に言ったその唇を気付くと自らの唇で塞いでいた
口をふさぐだけの軽いキス
そっとすぐに離す
「それを本当だと言い張れる確証が欲しいんだ。あんな事言った後にこんな事を頼むのは卑怯だと思ってる。でも…どうしても…。あの申し出、受けさせてくれないか…?」
急な事に驚き慌てるキリクの動きを制する様にもう一度キスをした
「そんなっ…の…っ」
返事もさせないと、今度は深く口づける
舌で歯列をノックすれば、キリクはいとも簡単に受け入れた
口腔を舌が蹂躙して、二人ともだんだんと息が揚がってく
「んっ…ふぅ、んんっ…はぁっ」
オレは口を離してやり
「それは…オーケーってこと?」と意地悪く尋ねると
「ずっ…ずるい…最初から断らないの…分かってた、でしょっ?こんな事されて、断れるわけ……ない」
拗ねた口調で俯いているコイツが可愛くて、「ごめんごめん」と言いながら、ご機嫌を取る様に頬に軽くキスをした
すると、少し遠慮がちにキリクは袖を引く
「ベッド…こっちだから。ちょっと待ってて…。シャワー浴び……うわっ?!」
シャワーを浴びに行こうとするキリクを強引に引っ張り、そのままベッドに押し倒してやった
「ココまでして、まだ焦らすとか生殺しもいい加減にしろよ〜。ほら、観念知ろって。シャワーなら後で入れば良いだろ?…一緒に」
逃がさないと腕をベッドに張り付けて、そっと耳元で意地悪く囁いて、ついでに耳を舐めてやったら案の定面白い声を出した
それを恨みがましそうに見上げて
「うっ…い、イジワルっ…」
言い終わるか分からないウチにオレは衣服を剥ぎ取りにかかっていた――――