本文時は日差しも強くなってきた初夏

リーフは鼻唄混じりでファイアの前に

とある紙を突き出した

「ほっ…ほらっ。夏なのに地元にいる可哀想なお前にイイものをやろう。」

いつも通り過ぎる、人の神経を逆撫でする言い回しにカチンとしながらファイアは声の主をジロリと睨む


「…はっ?勝手に一人で行けよ。オレはお前と一緒なんてゴメンだよ」

リーフが持っていたのは、最近出来たばかりのビーチリゾートのチケットだった

「そんな事言わずにさぁー…お前顔は良いんだから、ナンパの成功率あがるだろー。」

「…行ってやっても良いけど。全部お前の奢りな。こっちは付き合ってやってるんだから、当たり前だろ?」

ファイアは平坦な口調を努力して、憎まれ口を叩く

やはり、こちらばかり楽しみにしていると思われると居たたまれない

ゴールの見えない片想いをずっと続けてる


「はぁ?なんだよそれ…何でお前に奢らなきゃいけないんだよ。大体このチケットだって俺がわざわざ…」

最後の方を濁しながら

満更でも無いと表情が物語っている

互いに想い合っているのは、客観的に見れば歴然である

そして、当の本人達も或いは…

しかし、まだ一歩踏み出せないのは

期待して裏切られた時の痛みが想像の中で膨らんで居るから

そして、今の心地好い関係を打ち破る覚悟が出来ていないからでもある

「あっそ、なら行かない。どうぞ可愛い女の子と楽しんで来て下さい」

するとリーフは慌てて

「分かった!…ったくしょーがねーな。今回だけ特別だぞ」

とは言え、思わず口元が緩んでしまう

「ニヤニヤすんな。キモい」

ファイアは辛辣な言葉を並べて、ふいっと顔を背ける
そしてファイア自身も、ふっと笑みを漏らした―



翌日。
件の場所に来た二人は、キラキラと日光を反射する青い海に目を細める

「夏だー!海だー!水着のおn、グハァッ」

「声を大にして何言うつもりだっ、バカ」

リーフの発言に、ファイアは蹴りを入れて中断させた

リーフは蹴りを入れられて、砂浜に顔を埋める

「いたた…相変わらず容赦無いなぁ…」

砂浜から顔を上げ、反論する

「くっ…あは、ははは!リーフ、お前その顔…はははっ」

ファイアはリーフの砂まみれになった顔を指差して笑っている

「(…っ〜!可愛すぎんだろ、何あの顔!あー、マジで幸せ)」

リーフは顔を真っ赤にしながら、しかしファイアの顔から目を離せないでいた

「さて、せっかく来たんだし泳ぐか!」

先程の笑顔から、緊張が解けたファイアは

いつにも増して声がはつらつとしている

すると次の瞬間、ファイアはスッと自らの衣服に手をかけた

その突然の行為に、先程まで見とれていたリーフが狼狽する

「おまっ…、ロッカールームあるからそこで着替え…ってあれ?」

取り払った衣服の下には、ちゃんと水着が着られていた

「…何考えてんの?オレはお前みたいな変態じゃ無いから露出狂みたいな真似はしない」

ジトッとした目で見れば、返す言葉も無い

ファイアは踵を返すと、リーフは取り繕う

「何かゴメンっ…、ちょっと待ってくれよ」

良く良く見ると、ファイアは自分のバッグに日焼け止めを取り行っただけで、更に眉間にシワを寄せて

怪訝そうな顔で見ている


「何?…あー、オレすぐに日焼けすると赤くなる体質なんだよなぁ〜」

キュポッとボトルの栓を外して、中から白濁色のオイルをファイアは身体に垂らしていく

首筋から鎖骨へ、胸から臍へオイルが滴る

目の前で繰り広げられる、予想だにしなかった官能的な光景にリーフは生唾を飲む

「(きっ…際どすぎる!ねぇっ、誘ってんの!?俺の理性がもう少し緩かったら…ヘタレじゃ無きゃ。この気持ちと一緒に手を出せたかもしんないのに!)」

リーフは息を荒くしながら、入場する際に持ってきたパラソルをその場に立てる

肩に引っ掛けていたパーカーをファイアに投げてよこし

「きっ、着替えて来るから。それ着て待ってろ//」

急いで視線を外して、リーフは急いでロッカールームに向かった

その場にポツンと一人残されたファイアは手に残ったパーカーに視線を落とす

言われた通りに身に付けると胸がドキドキしてくる

「(リーフの…匂いがする)」

ヘタレで情けない癖に時々見せる拙い優しさに気持ちが再燃してしまう。

こんな恋は諦めようと思っているのに思った先からこんな事をしてくる

「(報われないのは…やっぱ辛い…)」

そう心の中で呟いて、膝を抱えてパーカーに顔を埋めた


それからすぐにリーフが水着に着替えて帰ってきた


久々に見るリーフの肌にファイアはどぎまぎしてしまう

普段の努力の賜物か、トレーニングを欠かさない為

リーフの身体は精悍な体つきをしていた

それにファイアはリーフに憧れと劣等感を持っていた
「おまたせー…っ!?」

「遅い…なんだよその顔」

「(体育座りで上目遣いがマジでヤバいとかそう言う事は二の次で…)」

リーフはファイアが身に付けているパーカーを指差して

「それ…」

するとファイアは真っ赤になって

「おっ、お前が言ったんだろ。今日、上着持ってくるの忘れたし…」

沈黙が少しの間続き、それからスッと立ち上がり

「…ちょっとクラブ探して、この汚物きりさいて貰ってくるね」

「(ヤバいっ、ファイアの目が完全に据わってらっしゃる!)」

リーフは慌ててファイアを制し

「すいませんっ!調子に乗りましたっ!」

と平謝りする

するとファイアがプッと吹き出して

「とりあえず泳ぐかなぁ。…リーフはナンパでもしに行くの?」

と尋ねるので

「いや…オレもまず泳ぎたいや」

ファイアはパーカーを脱いで海へ駆け足で迎う

「ほらっ、早く来いよ!」
そんな光景に口元を緩めつつ

「(あ…パーカー脱いじまった…あー、でも水着姿も素敵だし…)」

とふしだらな考えを抱いていた―



海の中は程よく冷たくて、波は身体を弄ぶ

沖まで来ると、人もあまり居なくなり二人は子供の様に遊んでいた

ただ、ふっとした瞬間に視線を合わせてしまうと

なんだか変な雰囲気になりそうで気まずかった

『(だって…、目のやり場に困るんだよっ!!)』

と、二人揃って心の中で叫んでた

「ほらほらー、先行っちまうぞー!」

「ったく…お前みたいな、体力バカっと…一緒にすんな!」

ファイアも負けじと追いかける

ドンッと、後ろのファイアを見ていたリーフの背中に

人とぶつかった様な軽い衝撃があった

「あ、すんません」

と言って後ろを振り向くとそこには…

「へ?…メノクラ…ゲ?…うぐっ!」

メノクラゲのどくづきを喰い、リーフは海に沈む

「リーフっ!?」

ファイアは息を思いきり吸い込んで、海に潜る

沈んだ瞬間に気付けたので浅いトコですぐに引き揚げる事が出来た

「あー…うー…」

リーフは目を回して唸っている

予想していた程、大した事は無かったので

ファイアはホッと胸を撫で下ろす

しかし、流石に泳いで戻らせるのは無理だろうと思い

ファイアはリーフの肩を自分に回させて、急いで浜辺へと戻った―




「誠に申し訳ございません!こちらのセキュリティの至らなかったばかりにお客様に大変なご迷惑をおかけしてしまって」

ホテルマンはとても申し訳なさそうに頭を深々と下げる

それを見て、ファイアはブンブンと頭を振る

「そんなに謝らないで下さい。コイツも大丈夫そうですし…しかもこんな部屋まで用意して貰って…」

そう、今ファイアとリーフはリゾートホテルの一室にいた

先程医者を呼ぼうと、近くの監視員のトコに向かい時に事情を説明したら

わざわざ部屋まで用意してくれて

海水でずぶ濡れのリーフを手早く身綺麗にして貰った

当の本人は今現在、ベッドの中ですやすやと寝息を立てて寝ている

医者の話では、少し体に違和感があるが普通に動けるし

違和感も一日もあれば全快すると言う事だった

「いえ、その事についてはお気になさらず。この部屋はお二人様の為に手配したものです。この様な事では罪滅ぼしにもならないでしょうが…もし、ご予約が入っているのでしたら、お詫びの品をご用意しますが」
 
と、余りに気負いするホテルマンに慌ててファイアは

「え…良いんですか?そんなことして貰って…!?」

そう言うとホテルマンはニッコリと笑って

「はい、何日でもお時間が許すまでこのお部屋をご使用下さい。もちろん、3食やベッドメイキングなど従来のサービスも行わせて頂きます。ただ…」

とホテルマンは少し語尾を濁らせたが、ファイアは気にせず、耳を疑う提案に喜んでいた

「只今、ご案内出来る部屋はこのダブル一室になっていまして…今夜中にはもう一つベッドをご用意致しますので。」

するとファイアはブンブンと頭を振って

「い、いえ!そこまでやってもらうのは悪いですよ!あ、あの…元々ダブルで二人用なんだし大丈夫ですからっ!」

これ以上のワガママはと思って断ったつもりだった

しかし次の瞬間、フッと考えた事に赤面する

「(あっ、思わず断っちゃったけど…リーフと同じベッドで!?うわぁー、どうしよう。まぁ、最悪床で寝れば良いか…)」

「そういって頂けると助かります。ベッドメイキングは私が担当させて頂きますのでどうぞご遠慮無く。では、何か御入り用ありましたらお申し付け下さい」

そう言うと意味深な笑みを浮かべつつホテルマンは部屋を出ていった

静まり返っただだっ広い部屋にファイアは寂しさを募らせる

「リーフ…」

呼んでも返事はない

でも先程よりリーフは穏和な表情になっている

「まったく…お前は大人しくナンパでもしてれば良かったんだよ」

憎まれ口を叩いてもやはり返事は無い

「心配かけやがって…海に沈んだ瞬間、心臓止まるかと思ったんだぞ」

胸に溜め込んでた気持ちが口から出て止まらない

今なら言えるかと思った

別に伝える訳じゃなく

ただ胸のわだかまりを消すだけのつもりで口にした

「好きだよぉ…リーフ…」

口にする瞬間、もう前が涙で見えなかった

こんなにも苦しくて、切なくて、でも幸せで

報われないのだろうけど、君に恋してるその瞬間、僕は救われていた

だからこの涙が終わる頃。

ファイアは『新しい恋の仕方』を見出だせる気がした

「ファイア…?」

聞こえた声に驚き、涙が引っ込んでしまった

「今なんて…言った?」

その一言にファイアは血の気がサァっと引いた気がした

決して、聞こえなかったではなく信じられないと言うニュアンスが込められた一言なのが分かった

「うぁ…ああっ…」

ファイアはショックで声が上手く出ない

そして一目散に部屋から飛び出した

「なっ!?ちょっと待てよファイア!」

それを見たリーフも、重い身体を起こしてファイアを追った―
 
 
 
ファイアは後ろも振り向かず、ただひたすらに走った

「(聞かれたっ、オレの気持ち…どうしよう、もう終わりだ。一緒にいられない)」

頭はパニックを起こして、しかし唯一分かる事はこの場から離れる事だ

「とにかく顔合わせる訳には行かない…っ!」

ホテルのフロントを走り抜け、少し離れたビーチまで必死で走った

ビーチに出た瞬間に後ろから聞き慣れた声が聞こえた

「お前っ、ちょっと待てよ!ちゃんと話がしたいんだ!俺の話を聞いてくれ!」

その声に驚いて振り返ると、リーフはあと数十メートルと言うトコに居た

「良いから放…っといてくれよ!大人しく、寝てろ!」

息を切らせながら大声で叫ぶ
 
後ろに迫ってるリーフを振り切ろうとただ走る

「・・・っ!」

足に急に鋭い痛みが走る

砂浜にあった貝殻を踏みぬいた様だった

バランスを崩し、砂浜に倒れ込む

「ファイアっ!?」

後ろから強い力でグンッと引っ張られたが

上手く引き上げられず二人は倒れる

「・・うわっ!」

ファイアは背中を打ちつけたが

砂浜だっただけに衝撃な些細なものだった

そしてその右腕はリーフに強く握られていて

胸にはリーフのもう片方の腕が乗っかっている

つまりはファイアはリーフに押し倒された体制を取っていた

「なん・・・でっ、追ってくんだよっ!どっか行けってばっ!」

ファイアは涙声で必死に訴えた

「だってお前泣いてだもん、放っておけるか!」

強い声だった

いつもはどこかおどけた様な、人を鹹かった様な声なのに

その場の空気をシンッと静まり返す様な強い声だった

フッとそこでリーフは気付く

「(うわ・・・コレは、ヤバい。)」

ファイアはまだ水着のままで、

先程自分が貸したパーカーをひっかけただけになっていた

倒した衝撃で肌蹴て、胸に置いてある自分の手は

ファイアの鼓動と肌の温度を伝えてくる

「(潤む瞳は海が映ってるからだ。顔が真っ赤なのは夕日のせいだ。そうに決まってる・・・じゃないと・・・)」

二人はただ見つめ合う

多分、互いに自分の言葉が相手を傷つけてしまうんじゃないかと

言葉を探していた

そうする内に目の前の顔が近付いてきた

そう。お互いから見ても『近付いて来た』だったのだ

熱い唇を重ねる

それが自然の摂理の様に惹きあう様に

『っ!?』

二人同時に唇を離す

「なっ・・・どう、して!?」

ファイアは狼狽して、また涙を浮かべる

「ファイア?・・・お前・・・」

リーフ自身も驚いていた

二人は互いに無意識で顔を近付けていた

でもそんな事は恥ずかしくて口に出来ない

自分の望む事を本能と言う形で行動に移したのだった

「同情なら止めてくれよっ!お前のっ・・・その、曖昧な態度が、ひっ・・俺をどれだけ傷つけてるかっ!」

そしてリーフは尋ねる

「一つ確認させてくれ・・ファイア、何で泣いてるんだ?」

その声にファイアはカッとなった

心に溜めこんでいた気持ちが口をついて仕方なかった

「ひっ、人の気持ちも知らないで!!勝手な事ばっか言うなよっ!・・・ぐすっ、お前なんて・・・大っ嫌いだ!!」

「(もうダメだ。言ってしまった)」

この押し留めて居た気持ちを

「そうだよな・・・ゴメン」

リーフに謝られて居た堪れない

「(拒絶の言葉なら聞きたく無い・・・)」

逃げ出して耳を塞ぎたいと

身を捩じらせるがリーフの力が更に込められ

身動き一つ封じられる

「まず俺が言わなきゃいけなかったんだ・・・好きだ、ファイア」

その瞬間、ファイアは腕を強く引っ張られて

砂だらけの背中を抱き寄せられる

「え・・・?」

涙を流しながら弱々しい声を上げる

「お前が好きだ。ずっと・・・好きだった」

耳元で熱い吐息と一緒に心地いい声が響いてくる

「うそ・・・」

抱いていた手が緩められて

リーフの顔がまた眼前にやってくる

今度は意思を持ったキスが降って来る

優しく啄ばむ様に軽く合わせては離して

また重ねては名残惜しそうに離して

その繰り返し

「んっ・・・あ、ふぅ・・・んぁ」

ファイアは突然の事に息さえ上手く出来ない

「コレで・・・信じてくれるか?」

リーフは真摯な目で、でもフッとほほ笑んでいる

「だって・・・今まで」

ファイアはまだ今の状況に現実味が帯びてこない

「信じないなら・・・」

また唇を重ねて、今度は深くする

息をしようとファイアが口を開けた瞬間を逃さず

リーフは舌をファイアの口腔に侵入させる
 
「ん、はぁ…ふ…ぅ、むぅ」

リーフのキスが冗談の色を微塵も含んで無い事を知り、
ファイアも拙いながらも懸命に応える

苦しくなると口を離し

二人のその間に銀色の糸を紡ぐ

するとリーフはあることに気付く

「お前、足ケガしてるじゃんかっ。あー、シェルダーの貝殻の欠片踏んだんだなぁ」

「大丈夫だよ。大した事じゃな…うわっ!」

ファイアが言い終わらない内に、リーフはファイアの両脚と首を持ち上げる

要はお姫様抱っこと言うヤツだ

「おまっ、あんま調子乗んなよ!…恥ずかしいだろ…」

ファイアは照れて俯いているが拒絶の意思は感じられない

「そのまんまで歩いたら痛いだろ。それにあんまり騒ぐと注目の的になるぞ?」
そう言って、リーフはまた軽く笑うと

二人はホテルの自室まで戻っていった―




部屋に入るとバスルームに連れていかれ

ファイアは身を固くするが、そんな予感とは裏腹に

リーフはシャワーヘッドを持ち、ファイアの足にシャワーの水をかける

砂を丹念に洗い流すと

コッチ、とリーフに促されリビングに連れていかれる

「あー…結構深く切ったなぁ」

リーフは悲しそうに目を細める

「オレが上手く返事してやれなかったから…お前をこんな目に…」

思わぬ話の矛先にドキッとしながら

「ほっ、ホントだよ!お前のせいだ…」

いつもと違う二人の雰囲気に憎まれ口も上手く利けない

「そうだな」

途端にピリッと微かな痛みが傷口から感じる

「っ…!ってお前なにやって…あ…っ」

痛みの後に何とも言えない感覚がやってくる

くすぐったい様な、或いは…

「何って消毒。」

あっけらかんと言い放つ

リーフはファイアの傷口に唇を寄せては、

慈しむ様にキスを落とし

そして舌を這わせる

「そんなトコ、きたなぁ…やっ…ぁ」

ファイアは自分でも信じられない様な声に慌てて口を塞ぐ

リーフはフッと笑い

「可愛いな…声、もっと聞かせて」

と囁く

ファイアは悔しげに睨み

「ばっ…かにすんなぁ…んっ」

弱々しく抗議してもリーフは余裕の表情で『消毒』を続ける

「バカになんてして無い…ずっと思ってた。お前が可愛いって」

その声がやけに優しかったので、ついつい聞いてみたくなった

「いつ…から?」

「え?」

ファイアが尋ねると、疑問符で返ってきた

「いつから…その、オレの事…好き…だった?」

自分の事を好きなのか、と聞くのはなんだか凄く恥ずかしかった

こんな状況でも、まだ眼前にいる男が

自分の事が好きだなんて信じられないのだ

「多分…最初から」

リーフの思いがけない言葉にファイアは戸惑いを隠せない

「最初は良いヤツだな、一緒にいて楽しいな、って思ってたんだけどな…。まぁ、コレは恋なんだって自覚したのは11位かな」

「そんな前から…。オレ…全然わかんなかった」

「(リーフがそんな前から自分を想っていたなんて…。オレ今、絶対変な顔してる)」

嬉しすぎて、また涙が出そうになるがそれはなんとか耐えた

「そりゃぁ…バレ無いように必死だっからなあ。でも…他の人から見たら変な事ばっかしてたよなぁ」

リーフは照れ臭そうに笑い、ファイアも釣られて笑顔になる

確かに今思えば、何をやっていたんだろうって思う事ばかりやってた気がする

でもそれは、二人が結ばれるには必要だったわけで

一頻り笑いあった後に、リーフが尋ねる

「お前は?いつから俺に惚れてた?」

意地悪そうに笑って、ズイッと顔を近付けてくる

「あ…えっと、そのぉ…わっ、忘れた!」

恥ずかしい事を言いたくなくて、オロオロと嘘を紡ぐ

「忘れた?…ふーん、ファイア君はそう言う事言うの。なら…」

首筋に吸い付き、ファイアの肌に赤い痕を付ける

「やっ…やめ…」

「ちゃんと話してくれたら、止めてあげる」

耳元に熱い吐息と一緒に言霊を吹き入れてくる

そうして先程の、足の傷までリーフは顔を落とす

今度は消毒では無く愛撫に変わっていた

「いじっ…わ、る」

土踏まずを舌でなぞり、踵にキスを落とす

そして遂には、指の股をくすぐり始める

「やっ…指、やめ…てって」

「ダーメ。ちゃんと言えたら、離してあげる」

このままじゃおかしくなってしまいそうでファイアは観念する

「最初は…、嫌なヤツだって思ってた。イジワルだし、ガキっぽいし…」

すると足からの愛撫が止み

ファイアはホッとすると、話を続けた

「でも、気付いたらお前とバカやってるのが楽しくて…リーフが居ないと、なんか物足りなくなって…いつからって言われたら良く分かんないけど…」

おずおずと答えるファイアの姿を見て、リーフは満足そうに頷いた

「そっか…。やっぱ、俺たち似た者同士だったんだな」

「うん…」

恥ずかしくて真っ赤になる顔

ファイアは今すぐにこの場から離れたくて

「あっ、あのさ…汗とかかいたしシャワー浴びても良い?」

と言って、リーフはそれに頷いたのでダッシュでバスルームに入り込んだ―



「うわぁー、凄い夜景だなぁ…良いのかな、こんなトコタダで泊めて貰っちゃって」

と思いながらノズルを回す

火照った身体には冷たい水が心地良い

「(色んな事があったからまだ混乱してる…)」

ファイアは久々に感じられる一人の時間にリラックスする

「(好きって言われた、キスもした…けど)」

「(まだ未だに自信が無い。叶わないと諦めてたから恋だから)」

触れられた場所がどこもかしこもまだ温もりが残っている気がして、心地良いのにドキドキして落ち着かない

鏡を見てはっとする

「(キスマーク…付いてる」

途端に先程までの悪戯が蘇ってきて心臓が跳ね上がる

「(待てよ?コレってもしかして…俺なんて言った!?まっ…まるでコレじゃあ)」

自らシャワーを浴びたいと願い、もしかして誘ってるのではとファイアは今すぐここからも逃げたい焦燥に駆られる

「(やっぱり、そう言う事、スんのかなぁ…いや、嫌な訳じゃ無いんだ…けどぉ…//)」

やっぱり少し怖かったんだ

リーフとそうなる事では無くて、自分に絶対的な自信が無かった

「(女の子みたいな身体じゃ無いし、上手く出来るかも分かんない…って、ああっ!なに一人で考えてんだオレはぁ!)」

これ以上一人で居ると余計な事を考えそうだったので足早に済ませてバスルームを出た

「(まぁ…もしダメそうなら、顔面蹴って、んで待ってくれって言おう)」―
 
 


「お先…」

先程妙な事を考えていたばっかりに顔を合わせられない

「おかえりー、風呂どうだった?」

「あ…うん、夜景キレイだったよ」

ファイアはぎこちなく返す

「んじゃオレも入って来るかなぁ〜。あ、冷蔵庫に飲み物とか色々入ってた、結構美味いぞ」

そう言うとリーフはバスルームに入っていく

「(まさかこんな事になれるなんてな…)」

リーフは今日一日の事を反芻する

「(我ながら、あそこまで大胆に行動出来るとはな)」
と苦笑を浮かべる

ファイアが自分を好きかどうかがネックになっていたんだろうか

前までヘタレていた自分はいったい何処へ行ったんだと思う

「(にしても…やっぱり可愛かったな。あんな声と顔するんだ…)」

ファイアの先程の姿を想像して、そう言えばと

「(この状況は…OKサインなの…か?シャワー浴びたいとか言って…さっきだって恥ずかしがっては居たけど嫌がってはいなかったし…)」

それでも、と思い

「(いや…何年も待ったんだ。ファイアが自分から求めてくれるまで・・・待てる・・よな?)」
 
理性の限界がいつ来るか分からないが、今のところは大丈夫だと思う
 
大事にしたいと言う気持ちが何倍も上回っているから
 
「(・・・と言いつつ、今日は随分と調子に乗ったもんだよな)」
 
自分の情けなさに苦笑する
 
「(そう言えば、まだちゃんと『好き』って言われて無いなぁ。今日中にそれ位望んでも・・・罰は当たらないよな?)」
 
そう思ってシャワーを済ませバスルームを出た―
 
 
 
 
 
ベッドの上の光景を見た瞬間、リーフは口元を緩めた
 
「ははっ、まさかこう来るとはなぁ・・・」
 
呆れと言うか、ファイアらしいと言えばらしい様子に
 
胸に温かい気持ちが広がっていく
 
「すぅ・・・すぅ・・・」
 
そこには寝息を立てて、穏やかな顔をして寝ているファイアがいた
 
「今日は色々あって疲れたよな」
 
頬を悪戯に指の裏側で突いてやる
 
すると指を急に掴まれる
 
「リーフぅ・・・好き」
 
リーフは望んでいた言葉にビックリするが、
 
また寝息を立てているので寝言だと聞く
 
しかし指を掴んだ手は緩めない
 
「ったく・・・ってかこの部屋ダブルだったのか・・」
 
仕方なくファイアの同じベッドにもぐり込む
 
「(コレは・・・中々の拷問だなぁ)」
 
それからリーフはファイアを腕の中に抱きとめる
 
「この位しても、良い・・・よな?」
 
寝顔を見て居たかったが
 
リーフも思いのほか疲れて居たのかすぐに寝付いてしまった―
 
 
 
 
目覚めてからファイアはリーフと同じベッドで
 
しかも腕の中に抱かれてると分かり
 
思い切りぶん殴って起こしたのは想像に難くないだろう
 
その後は、この部屋は気が済むまで使って良い事を説明し
 
二人の今後の予定を確認しあいながら
 
あと2日滞在する事にした
 
「おはようございます、朝食をお持ちしました」
 
昨日のホテルマンの声だ
 
ドアを開けると、おいしそうなブレイクファーストが並んでいた
 
「昨日はよくお休みになれましたか?」
 
「ええ、まぁ・・」
 
と二人は顔を見合わせながらぎこちなく返す
 
「それは何よりです。本日は遊覧船によるクルージングなども行っているのでこぞってご参加下さい
 ちなみにポケモンバトルの大会も船内で行っているのでそちらも良かったら」
 
そしてホテルマンは一礼して去って行った
 
「とりあえず、今日はどうしようか?」
 
ファイアが朝食を口に運びながら言う
 
「んー、とりあえずは大会もあるって言うしクルージングでも行くか?」
 
「そうだなぁ、じゃあコレ食べたら行こうか」
 
「だな」
 
二人は他愛無い会話を交わしながら朝を過ごした
 
コレが終わったら二人で探しに行こうと思う
 
二人を結んでくれたメノクラゲを
 
そして捕まえて、世界一のメノクラゲに育ててみせよう―
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